円形脱毛症

円形脱毛症治療法ガイドラインと治療方法の推奨度を解説

不幸にして円形脱毛症と診断された場合でも、日本皮膚科学会円形脱毛症心療ガイドラインを軸に治療を行うことで、昔よりも効果的なアプローチが行えるようになってきました。

まずはどんな治療を受けるのかを、ここで紹介するガイドラインで確認しておきましょう。

円形脱毛症診療法ガイドライン

 円形脱毛症は後天性脱毛症の中で最も頻度が高い疾患で、アメリカでは総人口の0.1~0.2%の割合で発生しているので、日本でも同程度と考えられています。そこで、日本皮膚科学会と毛髪科学研究会の共同事業に、毛髪疾患治療に深く関わった皮膚科の専門医が加わった委員会により、円形脱毛症診療ガイドラインが作成されました。以下の表の推奨度は実験などで得られたデータをもとに決められ、各治療法の推奨度は「B」が最高で、いくら研究が進んでも、強く推奨する治療法はないことを知っておいてください。

推奨度の分類

※エビデンス:証拠、根拠、形跡

レベル

推奨度コメント

行うよう強く勧められる(少なくとも1つ以上の有効性を示すレベルⅠ、もしくは良質のレベルⅡのエビデンスがあること)

行うよう強く勧められる(少なくとも1つ以上の有効性を示す、質の劣るレベルⅡか良質のレベルⅢ、あるいは非常に良質のレベルⅣのエビデンスがあること)

C1

行うことを考慮しても良いが、十分な根拠がない(質の劣るレベルⅢ~Ⅳ、良質な複数のレベルⅤ、あるいは委員会が認めるレベルⅣのエビデンスがあること)

C2

根拠がないので勧められない(有効なエビデンスがない、あるいは無効であるエビデンスがある)

行わないよう勧められる(無効あるいは有害であることを示す良質なエビデンスがある)

エビデンスのレベル分類

記号(レベル)

推奨度コメント

システマティック・レビュー/メタアナリシス

1つ以上のランダム化比較試験

ランダム化比較試験

分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究)

記述研究(症例報告や症例集積研究)

専門委員会や専門家個人の意見プラス

※システマティック・レビュー:=系統的レビュー。臨床試験の論文を集め、その内容をまとめて評価すること。 ※メタアナリシス:複数の試験データを統合・解析します。 ※ランダム化比較試験:評価のバイアス(偏り)を避けて、客観的に治療効果を評価するのを目的とした研究試験方法。 ※分析疫学的研究:関連があると疑われる要因と疾病との統計学的関連を確かめて、要因の因果性を推定する方法。 ※コホート研究:特定の要因に曝露した集団としていない集団を一定期間追跡調査して、疾病の発生率を比較して、要因と疾病発生の関連性を調べて、将来に向かって問題とする疾病の発生を観察する研究方法。 ※症例対照研究:疾病に罹患した集団の曝露要因を観察調査し、次に、その対照として罹患していない集団についても同じように、特定要因への曝露状況を過去にさかのぼって調査する研究方法。 ※記述研究:疾病の疫学特性(発症頻度、分布、関連情報)を人、場所、時間別に詳しく正確に観察、記述する研究方法。 ※症例報告:病気の経過を観察したり、治療効果や影響を調べる「観察研究」のうちで、ある患者さんの診断・治療、経過について詳しく纏めた報告で、新しい予防法や診断法、治療法の発見につながる可能性はありますが、偏り(バイアス)や偶然が入り込む余地が大きく厳密さには欠けます。 ※症例集積研究:ある疾患をもつ患者群、または同じ治療を受けた一連の患者群だけを対象として、その疾患の特徴を測定・調査して研究報告を行い、対照群との比較は行わない研究方法。

ステロイド局所注射→推奨度=B

 毛髪が抜けた部分(脱毛班)にステロイドを直接、頭皮内に注射します。ステロイドは炎症を抑え、自己免疫疾患による症状の改善を目的とします。円形脱毛症はAGA(男性型脱毛症)とは原因が異なり、「抗炎症」「免疫抑制」を持つステロイド治療が基本ですが、発症期間や脱毛部の大きさによって治療方法に違いがあります。局所注射治療による改善効果は高いですが、長期使用による糖尿病や高血圧などの副作用も指摘されています。

局所免疫療法→推奨度=B

 患部に薬品を塗布して、弱い炎症(かぶれ)を起こして発毛を促進します。広範囲の円形脱毛症に向いているとされます。脱毛範囲が縮小すると云う信頼性の高い根拠が示されています。頭髪面積の25%~49%を失くした「S2」以上の多発型、全頭型、汎発型の症例に対しては、年齢を問わず第一に選択されるべき治療法となっています。 ※多発型:円形の脱毛部位が複数出現。全頭型:ほとんど抜けてしまう。汎発型:ある日突然、頭にコイン大の脱毛が起こり、早い段階で眉毛やまつげ、陰毛まで、あらゆる体毛が抜けてしまいます。=全身脱毛症

局所免疫療法の効果、治療方法、向いていない症例について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

点滴静脈注射によるステロイドパルス療法→推奨度=C1

 内服のものより高濃度(通常の10倍から20倍)の量のステロイドを点滴によって投与します。発症後6ヶ月以内の急速に症状が進行した成人には用いて良いとされている治療法です。メチルプレドニゾロン500mg/日、または8mg/kg/日、3日連続点滴静脈注射を行って、治療前と比較して脱毛範囲が縮小したと確認されています。尚、子供に対する安全性は確立されていないので推奨されません。

ステロイド内服ないし内服ステロイドパルス療法→推奨度=C1

 脱毛が急速に進行している成人に施して良いとされる治療法です。内服効果は認められますが、終了後に高確率で脱毛が再発することや、肥満や糖尿病、月経不順などの副作用を引き起こすことが確認されています。経口ステロイドパルス療法では、重症患者に対しても高い発毛効果が得られましたが、いずれも副作用が治療効果を上回ることもあって、その根拠は疑わしいものとされています。

ステロイド外用→推奨度=C1

 アトピー性皮膚炎をはじめ、皮膚疾患ではごく一般的に外用薬品として、ステロイドは用いられています。全病型の第一選択肢として推奨されていますが、一定の回復効果は認められても、有益性のある実証はされていません。また、全頭型や汎発型には期待できないとの報告もあります。ステロイド治療は自己免疫疾患による炎症を抑えることで、発毛効果を促進しますが、次のような副作用が心配されます。 ・副作用1:感染症のリスクが高まる ・副作用2:ステロイド糖尿病の発症 ・副作用3:高血圧

ミノキシジル→推奨度=C1

 元来は高血圧緩和の血管拡張薬として使用されていましたが、脱毛症回復程度の育毛効果が発見され、現在では育毛成分として広く知られています。プラセボと比べて、有意な脱毛範囲の縮小を示す根拠はありますが、その程度は弱いとされます。広範囲の脱毛の場合には無効であるとガイドラインは記載しています。

内服薬のミノキシジルタブレットは、頭皮の内側から直接届けられるので、外用薬の効果を超えると話題になっています。ミノキシジルタブレットの副作用としては、体毛の増加が挙げられます。これは体内を通って毛根に辿りつくため、頭の毛根以外にも育毛効果が現れるせいだと考えられます。他には吐き気や腹痛、性欲減退などの副作用が出る可能性があります。用法用量を守ることが大切で、外用薬ではつけ過ぎに注意しましょう。

セファランチン→推奨度=C1

 アレルギーを抑えて血流を良くする効果があるとされる、有効成分アルカロイドを中心とした薬で脱毛症の治療に使われます。アルカロイドは生薬として使われてきた長い歴史を持った成分です。19世紀の頃にはコカインやモルヒネとして使われてきた経緯もあります。 注目されるのは放射能による白血球減少症、円形脱毛症、粃糠性脱毛症の治療に使われている点です。血管を拡張する効能があり、末梢循環障害を改善し毛根などへの栄養供給がスムーズになるから、薄毛の改善にも効果的と云われています。しかし、内服による脱毛範囲の縮小が報告されていますが、科学的評価には至らず、現段階で実証されていません。 ※粃糠性脱毛症:「フケ症」と「脱毛」が合併した脱毛症で、頭皮のかゆみと発疹を伴い、思春期以降の男子に出現し易いです。

第2世代抗ヒスタミン剤→推奨度=C1

 1983年以降に発売された抗ヒスタミン剤を第2世代と呼び、第1世代のものより副作用が少ないと云われ、一般的に抗アレルギー剤として使われています。アトピー要因の症例には併用療法として一定の効果が認められ、発毛効果に十分な根拠があるとされます。

グリチルリチン、メチオニン、グリシン複合剤→推奨度=C1

 グリチルリチン、メチオニンは肝機能回復、皮膚の炎症を抑え、グリシンには抗うつ作用、睡眠改善の効果があると云われます。単発・多発型の症例に併用療法で用いて良いとされていますが、グリシン複合剤を主とした症例研究は少なく、治療効果や再発率などの評価は判っていません。

塩化カルプロニウム→推奨度=C1

 内服、外用のタイプがありますが、ミノキシジルと同じように血管を拡張し、血流効果の促進によって、髪や頭皮に良い影響をあたえるので、AGA治療などに使われます。プラセボと比べて、有意な発毛効果を示す根拠はありますが、その程度は弱いとされます。基本的には軽度薄毛の方、向きの成分で、フィナステリドとの併用が薦められます。塩化カルプロニウム液の使用を始めると、ごくまれに抜け毛が増えることがありますが、薬効の証拠なので、基本的には良い反応です。抜け毛の量は数日から数週間で元に戻ります。風呂上がりに塩化カルプロニウム液を塗布すると、寒気や吐き気、発汗、刺激感などの副作用が現れ易くなると云われています。気になる方は医療機関に相談してみてください。

直線偏光近赤外線照射療法(スーパーライザー療法)→推奨度=C1

 特殊な装置を使って、皮膚内部まで届く赤外線を患部に照射して、内部の炎症を抑えるのが目的です。簡単に治療を受けられ副作用も軽いので、単発型や多発型の治療に使用されます。塩化カルプロニウム、セファランチンなどと併用すると、発毛回復期間が短縮されるという弱い根拠が見出されています。ただ、前頭型や汎発型には無効とのデータがあります。

PUVA(プーバ)療法→推奨度=C1

 光線療法の一つで、紫外線の吸収を人工的に高め、紫外線(UVA)を一定時間照射します。局所免疫療法に対して無効だった全頭型や汎発型の成人には良い療法とされています。 実施前より脱毛範囲が縮小したという弱い根拠が見出されています。一般的治療法であることを考慮し、選択肢の一つとして用いて良いとされています。

冷却療法→推奨度=C1

 別名、雪状炭酸圧抵療法と云われ、ドライアイスを患部に一定時間当てたり、スプレー照射で人為的に炎症を起こさせて、発毛促進を図る治療法です。全頭型のような重症例には向きませんが、単発型、多発型の症例の併用には向いています。液体窒素または雪状炭酸を圧抵すると、以前より脱毛範囲が縮小したと云う弱い根拠が見出されています。

シクロスポリンA(CyA)→推奨度=C2

 アトピー性皮膚炎の治療法として用いられます。CyAを内服すると脱毛範囲が縮小したという弱い根拠が見出されていますが、休止後は脱毛が再発したり、高血圧や腎機能障害などが高確率で発症しているため、現時点では推奨されていません。

アンスラリン外用→推奨度=C2

 乾癬治療薬として用いられるアンスラリンを外用として使用すると、以前より脱毛範囲が縮小し、重症例に対しても発毛効果があったとされる弱い根拠があります。でも、国内では尋常性感染に対して認められていない薬品ですから、使用しない方が良いでしょう。

精神安定剤→推奨度=C2

三環系抗うつ薬(アモキサンなど)を内服すると、脱毛範囲が縮小するという弱い根拠はあります。ただ、臨床試験の記載がまだ曖昧で、その評価も水準に達していないので効果があったとは云いきれません。ですから、日常的な診療では使用を勧められません。

漢方薬→推奨度=C2

 柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)など漢方薬を使用して、通常型、全頭型、汎発型のいづれにおいても脱毛範囲の縮小が確認されていますが、他の治療法と比べた検証・報告が無く、有効性には疑問が残ります。今後の臨床試験の検証が進むまでは、日常的な使用は勧められません。

催眠療法→推奨度=C2

 不安や抗うつ治療の一つとして使われる催眠療法ですが、円形脱毛症がストレスの起因と考え、この療法が用いられた記録があります。以前より脱毛範囲が縮小したとされる弱い根拠はありますが、科学的評価が不明で効果が実証されていません。また精神科医は催眠療法が専門外のため、今後の臨床試験による検証結果が出るまで控えた方が良いでしょう。

鍼灸治療→推奨度=D

 はり治療による発毛効果は事例としていくつか挙げられていますが、脱毛範囲などの条件や治療後の記録などがないため、医学的根拠がなく評価基準にないとされています。現在のところ、有益性についても議論の段階に達していないため、発毛、育毛を目的としたはり治療は行うべきではありません。

分子標的治療→推奨度=D

 メモリーT細胞を障害する免疫調整合成タンパク質、抗インターフェロン・ガンマ抗体等を投与したところ脱毛範囲が縮小したという弱い根拠が見出されました。ただ、臨床実験の初期段階で十分データが得られておらず、この治療法は用いるべきでないとされています。

かつら→推奨度=C1

 かつらは、行動の未熟性や情緒不安定(ストレスなど)、髪の毛が抜けてしまったことによるコンプレックス、喪失感を緩和する目的で使用されます。頭皮を紫外線から守り、外傷を防ぐ意味でも推奨されます。スウェーデンでは、かつらも医療機器として認められ健康保険の適用もあることから、日本でも医療法上、認めるべきとコメントされています。

いかがでしたか、 ガイドラインに沿った効果的なアプローチで、気になる円形脱毛症を解消しましょう。 是非、参考にしてみてください。

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