この記事で説明する内容は?
「最近、髪の毛が抜けやすくなってきた…」「シャンプーのあとにフケがたくさん。しかも、べたつくような…」「頭皮が赤くなって、かゆみも出てきた」。
こうした症状でお悩みの方は、脂漏性脱毛症の可能性があります。 実は、脂漏性脱毛症は早期発見・早期治療が極めて重要な疾患です。
しかし、多くの方が「単なるフケだろう」「市販のシャンプーで様子を見よう」と誤った対処をしてしまい、結果として症状を悪化させてしまうケースが少なくありません。
この記事では、脱毛症の専門医として、症状の特徴から最新の治療法まで、詳しくご説明させていただきます。適切な治療により、多くの患者さんに症状の改善が見られているこの疾患について、正しい知識を身につけていただければと思います。
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総合頭髪治療を専門とする大阪AGA加藤クリニックグループ総院長 加藤です
臨床的に効果が認められた様々な薄毛・脱毛に有効な最先端の治療を得意としています
平成13年 近畿大学医学部 卒業
平成13年 大阪医科大学医学部付属病院 形成外科入局 麻酔科勤務
平成17年 大手美容外科 形成外科部長 植毛部門勤務
平成23年 大阪AGA加藤クリニック開業
日本形成外科学会 正会員
日本再生医療学会 正会員
国際抗老化再生医療学会 正会員
脂漏性脱毛症とは何か
脂漏性脱毛症は、頭皮の過剰な皮脂分泌と炎症が引き起こす進行性の脱毛症状です。特徴的なのは、過剰な皮脂分泌に伴う頭皮の炎症と、それに続く毛根萎縮のプロセスです。
臨床現場では、多くの患者さんが「フケが多い」「頭皮がべたつく」という症状を訴えて来院されます。 頭皮には通常、適度な皮脂分泌により皮膚バリア機能が保たれています。
しかし、脂漏性脱毛症では皮脂腺が過剰に活性化し、頭皮の微生物環境(マイクロバイオーム)のバランスが崩れてしまいます。この状態が続くと、毛包周辺で慢性的な炎症が起こり、最終的に毛根の機能が低下して脱毛に至ります。
最近の研究では、皮脂の過剰分泌だけでなく、その脂肪酸代謝の異常も重要な要因であることが分かってきました。つまり、皮脂の「量」だけでなく「質」も脱毛の進行に関与しているのです。
脂漏性脱毛症が発生するメカニズム
脂漏性脱毛症の発生メカニズムは、「皮脂過剰分泌」「マラセチア菌の異常増殖」「炎症反応の慢性化」という3つの要素が複雑に絡み合って進行します。
過剰な皮脂は酸化されやすく、これが頭皮の微小環境を悪化させる要因となります。さらに、この状態が慢性化すると、ヘアサイクル(毛周期)の乱れが起こり、成長期の毛髪が休止期に移行するスピードが加速してしまいます。
実際の臨床では、患者さんの多くが最初は単なる「フケ症」として対処されているケースが多く、その間に症状が進行してしまうことが課題となっています。
男性型脱毛症(AGA)との違い
AGAは男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)が毛包に作用し、毛髪が徐々に細くなっていく進行性の脱毛症です。
一方、脂漏性脱毛症では、過剰な皮脂分泌と頭皮の炎症が主な原因となります。
AGAでは頭頂部からのM字型の脱毛パターンが特徴的ですが、脂漏性脱毛症では頭皮の炎症が強い部分から不規則に脱毛が進行していきます。
実はAGAと脂漏性脱毛症を併発しているケースも多く、その場合は両方の治療を平行して行う必要があります。
AGAではDHTの産生を抑制する内服薬が主な治療となります。一方、脂漏性脱毛症では、まず頭皮の炎症を抑制し、過剰な皮脂分泌をコントロールすることが治療の基本となります。
円形脱毛症との違い
円形脱毛症は自己免疫疾患の一種で、突然の円形の脱毛斑が特徴です。脱毛部分の頭皮は比較的きれいで、炎症所見がないのが特徴です。
対して脂漏性脱毛症では、必ず頭皮の炎症や発赤、フケなどの症状を伴います。また、円形脱毛症では脱毛斑の境界が明確ですが、脂漏性脱毛症ではびまん性に進行していきます。
円形脱毛症では免疫抑制剤やステロイド外用薬が主な治療となります。
脂漏性脱毛症の症状と診断方法
脂漏性脱毛症の診断には、特徴的な頭皮症状の観察と詳細な問診が不可欠です。臨床現場では、デジタルマイクロスコープによる頭皮観察や、必要に応じて血液検査なども実施し、総合的な診断を行います。
頭皮の赤みや炎症、フケの特徴
脂漏性脱毛症における頭皮の症状は、一般的なフケ症とは明確に異なる特徴を示します。最も特徴的なのは、黄白色の油性のフケ(脂漏性フケ)と、その下の発赤した頭皮です。
患者さんのほとんどが「べたつくフケ」を訴えられます。このフケは通常の乾燥によるカサカサしたフケとは異なり、皮脂と角質が混ざり合った状態で剥離してきます。
デジタルマイクロスコープで観察すると、毛包周囲に黄色い痂皮(かひ)様の付着物が確認できます。 また、頭皮の炎症は一様ではなく、特に後頭部や頭頂部に強い傾向があります。
炎症が強い部分では、頭皮の毛細血管が拡張して赤みを帯び、軽い圧迫でも痛みを感じることがあります。この状態が慢性化すると、頭皮バリア機能が低下し、さらなる炎症を引き起こす悪循環に陥ります。
抜け毛の進行パターンと部位
脂漏性脱毛症における抜け毛は、特徴的なパターンで進行します。
初期段階では、シャンプー時や就寝時に通常より多い抜け毛(1日100本以上)が見られ、抜け落ちた毛髪の根元には白い油状の物質が付着していることが特徴です。 この脱毛は、頭皮の炎症が強い部分から始まり、徐々に周囲に広がっていきます。
進行期になると、毛髪の質も変化してきます。健康な毛髪と比べて、コシが減少し、まとまりにくくなるのが特徴です。これは、炎症による毛包のダメージが、新生する毛髪の品質にも影響を与えているためです。
脂漏性脱毛症の種類とその分類
脂漏性脱毛症は、症状の程度や進行状態によって大きく3つのタイプに分類されます。
症状の程度 | 進行状態 |
---|---|
軽症型 | 主に頭皮の脂漏性皮膚炎が中心で、軽度の脱毛を伴う 頭皮のべたつきやフケが目立ちますが、適切な治療により比較的早期の改善が期待できます。 |
中等症型 | 明確な炎症所見と持続的な脱毛が認められる 毛包炎を伴うことが多く、頭皮に軽度の痛みやかゆみを感じることもあります。 |
重症型 | 慢性的な炎症により、毛包の萎縮や瘢痕化が進行している 頭皮の一部が光沢を帯びて硬くなり、その部分の毛髪の再生が困難になっています。 長期的な治療管理が必要です。 |
それぞれのタイプの違いを考慮した、より精密な治療戦略の構築が今後の課題となっています。
脂漏性脱毛症の原因とは?
長年の臨床研究から、脂漏性脱毛症の原因は単一ではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていることが分かっています。その中でも特に重要なのが、過剰な皮脂分泌とそれに伴う頭皮環境の変化です。
過剰な皮脂分泌
過剰な皮脂分泌は、脂漏性脱毛症の発症において最も重要な引き金となります。過剰な皮脂は以下のような連鎖的な問題を引き起こします。
まず、皮脂の過剰分泌により頭皮の角質層が著しく肥厚します。これにより、頭皮の正常な代謝が阻害され、老化角質の滞留と炎症が始まります。
この状態を顕微鏡で観察すると、毛包開口部に皮脂と角質が詰まり、いわゆる「毛穴の詰まり」が発生しているのが確認できます。 さらに、過剰な皮脂は酸化されやすく、酸化した脂質は頭皮に対して強い刺激となります。これにより、慢性的な炎症状態が形成されます。
マラセチア菌との関係
マラセチア菌は通常、頭皮の常在菌として存在しており通常は問題ありませんが、過剰な皮脂分泌環境下では異常増殖を起こします。
マラセチア菌は皮脂を分解する過程で、遊離脂肪酸を産生します。この遊離脂肪酸が頭皮に対して強い刺激となり、炎症を引き起こします。
特に注目すべきは、マラセチア菌の代謝産物が頭皮のバリア機能を低下させ、さらなる炎症を招く悪循環を形成することです。 最新の研究では、マラセチア菌の特定の株が、より強い炎症反応を引き起こすことも判明しています。
これは、個々の患者さんの症状の違いを説明する重要な発見となっています。
ホルモンバランス
ホルモンバランスの乱れ、特にアンドロゲンホルモン、特にジヒドロテストステロン(DHT)の過剰分泌は、脂漏性脱毛症の発症に重要な役割を果たします。アンドロゲンホルモンは皮脂腺を刺激し、皮脂の分泌を促進します。
特に20-30代の男性では、テストステロンからDHTへの変換が活発になり、皮脂分泌が著しく増加します。 女性の場合は、月経周期や妊娠、更年期などホルモンバランスが大きく変動する時期に症状が悪化する可能性があります。
ストレス・睡眠不足・食生活の影響
慢性的なストレスは、視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)を介して皮脂分泌を促進し、さらに免疫機能にも影響を与えます。
睡眠不足も重要な因子です。良質な睡眠が取れないと、皮膚のバリア機能が低下し、炎症が起きやすくなります。
また、睡眠不足は皮脂分泌を増加させ、頭皮環境をさらに悪化させます。
食生活については、特に高脂肪食や糖質の過剰摂取が皮脂分泌を促進することが分かっています。また、必須脂肪酸やビタミンB群、亜鉛などの微量栄養素の不足も、頭皮の健康状態に影響を与えます。
頭皮ケアやヘアケア製品が悪化させるケース
不適切な頭皮ケアやヘアケア製品の使用は、症状を悪化させる大きな要因となります。特に注目すべきは、過剰な洗浄や逆に不十分な洗浄が、どちらも頭皮環境を悪化させる点です。
強すぎるシャンプーの使用は、頭皮の過剰な脱脂を引き起こし、代償性の皮脂過剰分泌を招きます。また、すすぎが不十分な場合、残留した洗浄成分が頭皮を刺激し、炎症を悪化させます。
スタイリング剤の過剰使用も問題です。特に油性の製品は毛穴を詰まらせ、頭皮の呼吸を妨げます。
脂漏性脱毛症の治療法と改善策
脂漏性脱毛症の治療は、「炎症の鎮静化」「皮脂分泌のコントロール」「頭皮環境の正常化」という3つの柱を軸に進めていきます。
内服薬による治療
抗真菌薬の内服は、マラセチア菌の増殖を抑制する効果があります。特にイトラコナゾールなどの経口抗真菌薬は、重症例で高い効果を示します。
ただし、肝機能への影響を考慮し、定期的な血液検査によるモニタリングが必要です。
外用薬による治療
ステロイド外用薬は、炎症を抑制する即効性がありますが、長期使用は避けるべきです。代わりに、抗真菌作用を持つケトコナゾールを含む外用薬を使用することで、マラセチア菌のコントロールと炎症の抑制を同時に行うことができます。
低出力レーザー療法(LLLT)
近年注目されているのが、低出力レーザー療法(LLLT)です。この治療法は、炎症を抑制するだけでなく、毛包細胞の活性化も促進します。
また、安全性が高く、副作用も少ないため、多くの患者に適した治療オプションとなっています。ただし、個々の患者によって効果の程度が異なる可能性があるため、治療計画は慎重に立てる必要があります。
自宅でできる予防と改善
医療機関での治療と並行して、日常的なケアも重要です。
1日1回、ぬるま湯(38-40度)でじっくりと頭皮を洗い流すことが基本です。弱酸性で刺激の少ないものを選び、指の腹を使って優しくマッサージするように洗います。
すすぎは特に重要で、シャンプー成分が残らないよう、十分な時間をかけることをお勧めしています。
また、規則正しい生活リズムを保ち、十分な睡眠時間(7-8時間)を確保することが重要です。
さらに、糖質や飽和脂肪酸の過剰摂取を避け、腸内環境を整えることも重要です。
脂漏性脱毛症は完治するのか?
結論から申し上げますと、適切な治療と継続的なケアにより、症状の改善と安定化は十分に可能です。
ただし、その過程には正しい理解と患者さん自身の積極的な関与が不可欠です。
治療における完治の可能性とは?
脂漏性脱毛症の「完治」を考える際には、以下の二つの観点からの理解が必要です。
- 症状の消失
- 再発の予防
まず、症状の改善に関して特に重要なのは、毛包の瘢痕化が進む前に治療を開始することです。頭皮の炎症が長期化すると、毛包が不可逆的なダメージを受ける可能性が高まります。
最新の研究では、炎症による毛包幹細胞への影響も指摘されており、早期介入の重要性がより明確になってきています。
脂漏性脱毛症の再発防止には、「引き金となる要因の理解と管理」が鍵となります。特に、頭皮の微小環境(マイクロバイオーム)のバランスを維持することが重要です。
マラセチア菌の異常増殖を防ぐため、適切な頭皮ケアの継続が不可欠です。
そして、ホルモンバランスの維持は再発の重要なトリガーとなります。特にストレスや睡眠不足による内分泌環境の乱れには注意が必要です。
定期的なホルモン値のチェックと、必要に応じた調整が推奨されます。
長期的なケアが必要な理由
脂漏性脱毛症の管理には、継続的なアプローチが不可欠です。その理由は、この疾患が単なる症状の問題ではなく、頭皮の免疫応答や皮脂分泌の調節機構に関わる複雑な病態だからです。
慢性炎症により乱れた免疫応答を正常化するには、一定期間の継続的なケアが必要です。過剰な皮脂分泌を適正なレベルにコントロールするためには、皮脂腺の機能を徐々に正常化していく必要があります。
これには、内服薬による調節と共に、適切なスキンケア習慣の確立が重要です。 定期的な経過観察により、症状の変化や再発の兆候を早期に発見することができます。
まとめ
脂漏性脱毛症は、頭皮の過剰な皮脂分泌と炎症が引き起こす進行性の脱毛症状です。見過ごされがちな初期症状から、徐々に深刻な脱毛へと進行する可能性があり、早期発見・早期治療が極めて重要です。
誤った自己対処や不適切なケアは、かえって症状を悪化させてしまう可能性があります。脂漏性脱毛症の治療には、頭皮環境の詳細な分析と、個々の症状に合わせた適切な治療計画の立案が不可欠です。
当院では、豊富な臨床経験と最新の研究知見を活かし、詳細な診断に基づいた治療を提供しています。 べたつくフケや頭皮の赤みなど、気になる症状がありましたら、薄毛治療の専門医である当院にご相談ください。
適切な診断と治療、そして継続的なケアにより、脂漏性脱毛症は十分にコントロール可能な疾患です。一人で悩まず、専門医による適切な治療を受けることが、確実な改善への近道となります。
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